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2019年 05月 04日 ( 1 )

大岡山の担担麺

先日「わたし、定時で帰ります」という民放のドラマを
何とはなしに見ていたら、最後にヒロイン吉高由里子と
その彼氏役の中丸雄一が、東急「大岡山」駅で待ち合わせる場面が写った。

この駅の真ん前に長男が通った大学がある。
何だか懐かしくて、思わず目を凝らしたが、
ただ駅の名前が写っただけですぐに場面は切り替わった。


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当時、目黒区内の・・・・といっても
商店街のある下町の古い小さなビルの一室に下宿していた長男。

彼は友達にどんなとこに住んでるの?と聞かれると
「刑事ドラマでサ、『いるのはわかってんだ!!開けろっ!!』って
怒鳴りながら、ガガガガンってデカがドア叩くようなとこ」
と応えていたらしい。



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地方から出てきたピッカピカの大学一年生は
愛車である中古の自転車を駆って、通学もコンパも買い物も
そして遊びにもどこへでも行った。見るもの聞くもの何もかもが刺激的で
都会育ちの同級生さえ眩しく見え、夢のように過ぎた数か月後
田舎の素朴な青年であった彼は、仕送りだけでは到底事足りないことに気づく。
家庭教師・・・・なんていう地方青年にふさわしい授業の合間の仕事も
少しはやったものの、いつしか昼夜を問わず、飲食店でのアルバイトに精を出す毎日。
彼にとって額に汗して働けば働いただけ、その対価として報酬を得るという行為は
初めての経験だったが、それは頭脳労働よりも彼の性分に合っていたし
なによりも、その職場で出会う人たち、接客の仕方や厨房のなかの決まり事など
すべてが目新しくエキサイティングに満ちていて、
それらはたちまちにして彼を魅了したのだった。
すっかり労働の歓びに目覚めたこのヒト、大学のサークルにだけは熱心に顔を出すものの
学生の本分である勉学の方は、当然のことながらすっかりおざなりに。。。。

そしてまた、彼は愚直な世間知らずでもあったので
大都会東京のまさに生き馬の目を抜く社会のただなかに
自ら望んで飛び込んで行ったものの、少々怖い目にも
とてつもなく心細い目にもかっこ悪い目にも何度か遭ったようだ。
が、親の私はいまだ詳しくは知らない。
しかし多分、それらを追求し微細に至るまで白日の下にさらすことは
しない方がきっとお互いのためだ。
何故って子供だからといって、いや子供だからこそ
親には永遠に話したくない事柄の一つや二つはあるものだと思うから。

ああでもそれ以前の問題として、アレはまず親に連絡をしてこなかった。
そしてこちらからの電話やメールにも、なかなか応じなかった。
だから、当初は随分やきもきしたものだ。
心配は度が過ぎると怒りに変わる。
そんな風だから、ダメもとで掛けた電話にたまたま出たりすると
ついがみがみ言ってしまい、私の方が自己嫌悪に陥るのが常だった。

そのうちいつしかそんな状況にこちらも慣らされてしまった。

「元気ならいいや・・・・」



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とはいえ、私も時々は偵察を兼ねて下宿を訪ねた。

そんな時は一応「行くよ」と連絡はするのだが、彼からは
「僕いないけどそれでよければ」ほぼそんな返事だったから
行くと冷蔵庫を食べ物で満たし、掃除洗濯をし一人彼のベッドで寝て
日中は彼の下宿を根城にして、東京のあちこちに一人で遊びに行ったりしていたのだった。
そして息子とは会わないまま帰る・・・・そんなことがよくあった。

つまりこちらも、健気に尽くして帰らない亭主をひたすら待つ・・・・・
などという、そんな昭和の新妻のごとき母親でもなかったのだ。



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「僕の好きな店は、お母さんにはレベル高すぎだから大学の近くの店に行こう。
 あ・でも誰か知り合いに会うかもな・・・・まっいっか。」

れは長男が学部2年生の時のことだった、遠方からはるばるやってきた
この『無償の家政婦』である母親に、んと珍しくご馳走してくれると言う。

当時辛いものブームで、私も「食べるラー油」にドはまりしていたのだが
まだ担担麺というものを食べたことがなかった。
そして彼はこの時すでに、お尻が痛くなるほどの激辛マニアになっていた。
そこで私は「キミのおススメの担担麺を食べさせてよ」とリクエストしたのだった。

「大岡山」駅で待ち合わせて、夕暮れの通りを歩いて行ったその店は
どんなだったか・・・・・・店内の様子も担担麺の味すら思い出せない。

ただ、その店までを息子と並んで歩く道すがら、見上げた夜空に
まんまるな銀色をした綺麗な満月が出ていたことだけは、15年たった今も
ぼんやりと脳内スクリーンに浮かび上がらせることができるのである。
あたかもモノクロの映画のワンシーンのように。


























by marucox0326 | 2019-05-04 20:21 | 話の小部屋 | Comments(24)

照る日もあれば曇る日も・・・。そんな日々の戯言です。


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