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男が涙する時

坂本九さんは
涙がこぼれないように上を向いて歩こうと歌った。

しかもそれは「一人ぼっちの夜」なのだ。
そんなことをしたところで、溢れだす涙を止めることはできない。
でもそこに、人前では決して見せないけれど
今日ばかりは夜目にまぎれて、人知れず弱り切った自分をさらけだすことに
救いと安らぎを求めて街をさまよう、一人の男の背中を想像していた。

曲調はどこまでも明るく爽やかなだけに
より一層、彼の悲しみの深さが胸に迫る・・・・。
そう、だからこの歌の主人公は男性にほかならぬはず、
少なくとも私はずっとそう思っていた。

だって、女はこんな風には泣かない。

泣きたくなったら、やけ酒かやけ食い
もしくはパアッと散財して思いっきり泣き明かす。
それは一人でとは限らない。
時には友達に聞いてもらいながらだったりもする。
そして派手に泣いた後はケロリとして
何事もなかったかのように振舞える。

違うだろうか。




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「男たるもの人前で泣くもんじゃない」

昔の男性たちが、簡単には泣かないのは
そう母親に躾けられたからという事だけではなく
彼ら、感情をどうやったらうまく吐き出させられるかという術を知らず
むしろどうにかして心の奥に封印してしまう方が楽になってしまったから。
いつのまにかそんな精神構造を植えつけられた生き物だから。

・・・・・昔の女である私は、少し前までそう思っていた。



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しかしながら、時はめぐり
昨今の平成日本男子、よく泣く。

うちの息子たちとて例外ではない。

子供のころから運動に明け暮れていた彼ら、
試合や駅伝大会などで
負けては肩を震わせ、声を押し殺してむせび泣き
勝っては男同士で汗臭い体も厭わず抱き合い、
ウオンウオンと泣き明かしていた事を思い出す。

そして一緒に映画やドキュメンタリーなどを見ている時も
ふと顔を見ると目が赤いのだった。
そう、「涙くんさよなら」ではなく
彼らは「涙」さえ来るもの拒まず受け入れる。

飼い犬が死んだ時も、大学に合格した時も、
そしてなんと自らが新郎として臨む結婚式でも。




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それは5年ほど前に遡る。
長男は27歳で結婚式を挙げた。
女装ダンスあり、凝った楽しい企画が沢山で、
それはそれは温かく笑いに溢れた披露宴で
私たちも大いに楽しませてもらっていたのだが、
そんな風に笑ったり、ふざけあっていた彼らが
後半になるとお酒も回ってきたせいか、なんだか様子がおかしい。
極めつけは新郎新婦制作の彼らの「誕生からの足跡」映像である。
すすり泣く女の子たちに混じって、見渡せば
男の子たちも目を真っ赤に泣き腫らしているのだった。

まあ~みんないい子たちだわ~と胸を熱くしている間もなく
いよいよ恐れていたあの瞬間がついにやってきた。
それは新郎新婦から私達親への花束贈呈と
参列してくださった皆さまへ新郎側がご挨拶をするという
出来得ることならば、即座にその場から逃げ出したいが
そうもいかない披露宴のクライマックス。

私たち4人の親たちは、特に新婦のお父様など
きっと心はドシャ降りの涙雨だったろうと心中お察しするが
皆、複雑な面持ちながらぐっと平静を装っていた。
ツレは、暗記した文章を一言一句間違わずに述べて
日夜練習した成果を果たしたし
新婦は、感謝の手紙をよどみなく読み終えて
私はと言えば、この日のために新調したスワトウ刺繍のハンカチーフを
汚さずに済んだことにホッと胸をなでおろしていたのだった。

さて、最後に新郎の挨拶となったのだが、ここで予期せぬ事態が。
我が息子・・・・涙でしばし言葉に詰まってしまったのである。
気を取り直して話し終えはしたものの、私は虚を突かれそして思い出した。

「近頃は新婦じゃなくて新郎が泣くのよ」

話に聞いてはいたものの、
ああ息子よ、お前もか。
さらにお開きの後、若い男達は互いに感極まって
人目もはばからず「織田信成」化していたのだった。




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以前、近頃の日本の若者は、挨拶代わりにハグすることに何の抵抗もない
という現代事情について書いた。→☆
私としてはそのことをいいとか悪いとかではなく、多少の戸惑いはありながら
日本人も漸く感情表現が素直にできるようになったのだなあという思いを
しみじみと感じたまでのことであった。
人前で涙するという行為も、時と場合によっては
決して情けなく恥ずべきことではないのかもしれない。
感情が昂ってこらえきれず落涙する姿は
男であれ女であれ人間らしくてまことに結構。
私はそんな人が大好きである。

そしてチョー余計なことながら
天を仰いで、溢れる涙が落ちるのを空しく抵抗している男性の姿には
さらにぐっと心を鷲掴みにされてしまったりするのである。





























Commented by kumama47 at 2017-10-10 18:59
結婚式で感極まって涙する新郎。私なら感動して一緒にもらい泣きです。^ ^

最近とみに涙腺が弱くなり、テレビを見ても本を読んでもダーダーと涙が出ます。
つい先日も通勤電車の中で読んでいた時代小説で涙が出て来て(イカンイカン恥ずかしい)と慌てて読むのをやめました。

それに引きかえウチの息子は小さい頃から泣かない子で、夜泣きもせず、怒られてちょっと泣いてもすぐにケロッとし、なんだか可愛くないわと思ったものです。
なんだか一昔前の日本男児のようで、だからモテないのねとちょっと将来が不安になってしまいます。(ーー;)
Commented by katananke05 at 2017-10-10 21:19 x
なるほど 「織田信成]化ですか、、
そういえば あのあたりから よくスポーツ選手でも 見かけるように
なりましたね、、
わたしも 涙もろい 方で 必死でこらえたりしますが
はずかしくおもわず 感情を素直にあらわす、、というのは
いいことなのでしょう、、、かね、、

わたしも 男子たる者 必死でこらえていて それでいて
涙が 浮かんでいる、、というすがたに ぐっとくるのですけどね〜
Commented by marucox0326 at 2017-10-11 11:05
> kumama47さん
こんにちわ。

一瞬ではありましたが、ちょっと驚きました^^;

私はそもそも泣き虫の感激屋なんです。
夫は泣いたのを見たことがありません。
この人には赤い血は流れているのかと訝るほどですよ^^;
坊ちゃまはそんなことはないでしょう?
大丈夫、男らしくて凛々しいじゃないですか。

息子たちも小さい頃は泣かない子でした。
予防接種でもけがをしても叱られても。
やはり運動するようになってからですね。
感情が表に出るようになったのは。

でも、人間本当に悲しくて辛い時は泣けないものです。
素直に涙を流せるのは幸せな証拠ですね。
Commented by marucox0326 at 2017-10-11 11:32
> katananke05さん
こんにちわ。

織田君もTV用に要求されている部分もあるとは思いますけど。

嬉しい時の涙、感情が溢れ出て抑えきれない時の涙は
素敵だと思います。
それでも私の親世代より上の男性は
いかなる時も涙を見せなかった・・・・
私は父も祖父も泣いているのを見たことがありません。

真央ちゃんや宮里藍選手の引退会見のような姿は
とても心打たれるものがありました。

Commented by nana at 2017-10-12 08:51 x
おはようございます。
結婚式で息子さんが感動して流した涙、いいですね~
札幌の結婚式でも感動の場面がありました。
甥が感極まって涙すると、体格の良い若者が共に泣いてくれている姿を目にして、
私も再びもらい泣きしてしまいました。
泣いたあとは、すがすがしい顔をしていました。
素直に感情を出せるって素敵ですね。
Commented by marucox0326 at 2017-10-12 17:28
> nanaさん
こんばんわ。

コメントありがとうございます。

男泣きも、やはり時と場合によるということでしょうか。
涙腺が緩すぎるのも困りものですが^^+

”みっともない”というご意見があったとしても
強ち間違ってはいないとも思います。
お優しいお言葉ありがとうございました。
Commented by tad64 at 2017-10-12 17:46
最近とみに涙腺がゆるくなりTVドラマにうるっとしちゃうんですが
若い頃はそんなこと絶対に無かったはず。男子たるもの・・・との気持ちが勝っていたようで。
只一度だけ就職した当初、先輩の酷い仕打ちに堪らずトイレに駆け込み泣いた思い出があります。
この時の悔しさがバネになり同期の仲間より一歩先を歩めるようになりましたが・・・
男の涙には色んな思いが込められていると思いますが、この時の涙は私の人生を大きく育てる慈雨ではなかったかと・・・
Commented by marucox0326 at 2017-10-12 19:42
> tad64さん
こんばんわ。

やはり年を取ると涙もろくなるのは誰しもそうみたいですね。

それにしても、今の若いもんに聞かせたいエピソードです。
その時の悔しさが自分を育ててくれたなんて。
そういう経験が人を強くも優しくもするのですよね。

今は新卒の離職率は1年目、3年目が多いらしいですが
うちの息子たちは、特に部活の6年間、きつい練習とコーチからのクソボケカス
で精神的には鍛えられたので、よほどのことは耐えられると言っていました。
でも今の時代そんなことがあろうもんなら大変です。

結婚式にはその時の仲間が大いに盛り上げてくれました^^;


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by marucox0326 | 2017-10-09 17:34 | 話の小部屋 | Trackback | Comments(8)

照る日もあれば曇る日も・・・。そんな日々の戯言です。


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