2017年 09月 15日 ( 1 )

彼女はエトワール


飛び込みの選手なんかじゃなくってよっ、失礼な!



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あれはいつだったかしら。
目が覚めたら、周りは見たこともない景色で・・・・。

そこは古物ーアンティークなんて呼ぶらしいけどー
を扱う「お店」の中だったの。

見渡せばカビ臭いビスクドールたちに囲まれて
かつてはオペラ座でも名を馳せたこのアタシが
なんでこんなところにってわが身を呪ったものよ。

最初は毎晩泣いてたわ。
でも、後ろの壁に掛けられた
暗い夜の海のような翼を持つツバメたちのおしゃべりがうるさくて・・・・・
そのうち泣き飽きちゃった。




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ある日、「お店」のマスターが
そう、いつも私のことを気にかけてくれていた優しいマスターが
「ここじゃあ可哀そうだ」って、ひときわ高い棚の上に私を乗せてくれたの。

お隣では、品のいい紳士と素敵なマダムが
ティータイムの最中だったんだけど、私を歓迎してくれたわ。
でも、意地悪な桃色のジャムポットにはじろりと睨まれちゃって。
マダムが言うには、ぷっくりとしたおなかの彼女から見れば
スレンダーな私が妬ましかったんだろうって・・・・。
たぶん、彼女100歳は超えてるわね。



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そのうち美しい声が自慢の、クリーム色の陶器の肌を持つ
レディ・カナリヤが、身の上を聞いてくれるようになって
アタシ達は親友になった。
でも実は彼女の住処が、オレンジ色の柔らかなを光を灯す
素敵なシェードランプの根元だったものだから
ある日どこかの奥さんに気に入られて
ランプごと貰われていってしまったの。

さすがにショックだったわ。
彼女と良い仲だった金の懐中時計が
寂しげにチクチクとつぶやくのを
日がな一日聞いていたものよ。

アタシもいずれ誰かにもらわれる運命にあることはわかってる。
でも高い棚の上からいろんな光景を見降ろす日々は
なかなか捨てたもんじゃなくってサ
おかげで「世の中」ってものがどういうものなのか
ずいぶん教えられた気がするわ。

踊りしか知らない私にとってはね。



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でもね
仲間の誰かが貰われていくのを見るのは辛いし
やっぱり不安なものよ。だってこっちには選ぶ権利はないんだもの。

で、ついにその日がきたわ。

ここのお店のマスターはね、ベルギーびいきなの。
「買い付け」とやらでイギリスによく出かけるけど
Parisには行ったことがないんだって。驚きでしょ?

そしてなんでも、ベルギーではいやな目にあったことがなくて
街も人も一番好きなんだって。
アタシのパトロンの中に確かベルギー人もいたはずだけど
どうだったかしら?
とにかく、際限なくそんなことをマスターとおしゃべりしていたのが
この家の奥様だったってわけ。で彼女が見上げた先にアタシがいて・・・。

目が合った時にわかったよ、アタシはこの人のもとに行くんだって。

それにね、なんだかこの恰好が珍しいって
奥様にいたく気に入られちゃって。



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今じゃここがアタシの終の棲家。
ここにもParisで出会ったような気もする
愉快な仲間ができたし、そのおかげで
そんなに居心地悪くもなく暮らせてるわ。

あ・そうそうこの姿勢ね、苦しそうに見えるかもしれないけれど
アタシだって夜中にはちゃんと横になって眠ってるのサ。

ポーランドにあるウ”ウォツワウ”ェクっていう
舌を噛みそうな町で生まれた彼に抱かれてね。
ホラ、お隣の素敵なブルーの彼がそう、私の寝床サ。

そんなこと知ってか知らずか奥様ったら
中に綺麗なレースも敷いてくれて。

フフ・・・・彼、くすぐったくて仕方ないらしいの。











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by marucox0326 | 2017-09-15 18:23 | 話の小部屋 | Comments(8)

照る日もあれば曇る日も・・・。そんな日々の戯言です。


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