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行く夏を惜しんで

相変わらず蒸し暑い。

さはさりながら
洗濯物を干していると
この前までくわっと照り付けていた日差しが
もうただ力なくじわりと熱だけを持って
私に纏わりついているのを感じる。

日が短くなった。
午後6時を回るともう暗くなり始めるのが悲しい。
何故って秋が待ち遠しいというよりも
その先の凍える冬を思ってしまうから。

ギラギラした太陽が恋しい・・・・夏よ行くな。



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でもこの先数十日後のある日、また洗濯物を干すときに
心地よい乾いた風が、いつになくひんやりと
頬を撫ぜていくのに気付いたら
私はきっとその瞬間、首が痛くなるほどに空を見上げ
どこまでも高く澄み渡ったそのスカイブルーに
かつての夏への感傷などすっかり忘れて
秋の訪れを歓迎しているに違いないだろう。


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野坂昭如氏の著作の中の「夏わかば」という短編が好きだ。

時は終戦間近、戦災で家を焼かれ孤児となった16歳
(たぶん数え年、今でいう中学3年生と思われる)の少年敬は
浜に置かれた古い砲台(西宮にある和田岬砲台か?)をねぐらとしているが
ある日、そこにやってきた二つ年上の美少女怜子に見咎められる。

少女は思ったままを率直に彼に尋ねてくる。
少年はそんな彼女を眩しく感じている。
彼女もそれを十分に承知しつつ、たわいのない砂浜での遊びや
言葉のやりとりに新鮮な感動を覚えている。
そしてまた、閉塞感と絶望というより開き直りにも似た無感覚の中
逞しく生きてきた少年にとっても
その時間は、モノクロだった景色が色鮮やかに変化したかのようだったろう。

「明日うちのお風呂に入りにけえへん?」

そう誘われた敬は
ついでに風呂の炊きつけにする薪を割って欲しいと彼女に頼まれ
それを名目に、彼女の父親(医者)のいない間に
彼女の家に行く約束を交わす。
そして二人はさらに親密になっていく。

疎開先の親戚の家を飛び出して戻った我が家はすでに焼失し、父母を亡くした敬と
病弱な継母と、開業医でありながら戦局上病院勤務を命じられ留守がちな父
学徒出陣で不在の三高生の兄を持つ、つまりは殆ど一人暮らしの怜子。
二つの孤独な魂はおずおずと
いやむしろ怜子は無邪気を装って彼を翻弄しながら寄り添っていく。
敬は怜子の家で、疎開先に送る荷物の荷作りを手伝い
二人で海を泳いで砲台の中で眠り
電車に乗って敬の家の焼け跡を見に行ったりもする。

どこか含羞にも似た気遣いを見せる敬に対して
いつもまっすぐに気持ちをぶつけてくる怜子。

ある空襲警報が鳴りやまぬ夜
敬は怜子が心配で、父親がいるかもしれぬ彼女の家に駆けつける。
「敬ちゃん」
「大丈夫やて、まだ遠い」
押し入れの中に身を寄せあう二人。
遠くで鳴る爆音と闇を照らす炎に怯える怜子は敬にしがみつき
そして敬は、彼女の胸のふくらみを腕に感じるのだった。

やがて空襲は止み、上気した顔を近づけて怜子は敬に言う。
「敬ちゃん、医学部いかへん?お兄ちゃん医学部いややいうて文科にはいってん
そやからお父ちゃんの跡継ぐんやったら、家に婿養子取るわけやな、医者の」

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焼け跡作家などと言われる野坂昭如氏
「火垂るの墓」はご存知の方も多かろう。
あの小説の中に出てくる二テコ池はツレの実家の近くにある。

様々な顔を持っていた氏は昨年末に亡くなったが
いくつか読んだ小説の中では
「エロ事師たち」と「骨蛾身峠死人葛」が鮮烈な印象だった。

「夏わかば」に描かれているのは、この中のどれとも違う情景だが
夏が終わりに近づくと、ふと思い出して再読したくなる小説である。




















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Commented by nobikunJ at 2016-09-03 18:19
日本の小説はほとんど読まない私ですが、野坂昭如は別でした。
私も「エロ事師たち」を寝食忘れて読みふけった一人です。
野坂の小説の魅力は、やはりその登場人物たちにあると思います。
どんな役柄だろうと、なぜかみんな愛すべき人物に思えてしまう。
そんな野坂の短編の中で、私が好きなのは「心中弁天島」。
今でもたまに再読して泣いています。
Commented by marucox0326 at 2016-09-04 12:06
> nobikunJさん
こんにちわ。

私も古典や明治時代の文豪には疎いのです・・・。
野坂昭如・・・・・登場人物もさることながら
「句読点」のない、「助詞」抜きの文体が当時は新鮮で嵌りました。
「エロ事師たち」「骨蛾身峠死人葛」も20代前半の女学生が読むには
衝撃的だったかもしれませんが^^;
「心中弁天島」哀しいお話でしたね。

これお写真では新しそうですが
1974年刷です。古い文庫は字が小さくて・・・・。

同時代では吉行淳之介、阿部公房、筒井康隆なども
好きな作家でした。
Commented at 2016-09-05 00:49
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by marucox0326 at 2016-09-05 11:25
> 2016/09/05 00:49の鍵コメさん こんにちわ。

寒いのが超苦手なんです。
でも熱帯夜とか真夏日は、蛇口をひねるとお湯が出てきて
あれ?確か元栓(言い方古っ)切ったはずなのにって
時ありますよね。そんな時は早く過ぎて~って思いますよ^^

お母さんの娘への思いが溢れていましたよ~。
人前に出て生で披露する、さらに場数を踏んで
色々な面で鍛えられますよね。

ますますのご活躍を祈念しています。

Commented by iris304 at 2016-09-08 08:26
こんにちは^^

若い頃読んだ本で、又読みたいと思った本はとってありますが
文字が小さくて紙の色もあせてきているので
余計に読みにくくて、とほほです。

人それぞれに その時々で思い出す本、光景、言葉
日は短くなり、天は高くなり
季節の移ろいの中で
又古い本を引っ張り出して読みたくなりました。
刺激を頂いてありがとうございました^^
Commented by marucox0326 at 2016-09-08 22:30
> iris304さん
こんばんわ

そうなんですよ。細かい字が苦痛ですよね。

読書の秋というのに、昔に比べると読まなくなったというか
読めなくなったと言うか・・・。私もとほほです。

それでもふと手に取って読み返した古い本に
つい時の経つのも忘れて読みふけってしまい
あたりはいつのまにか真っ暗に・・・・
なんてことがよくあります。
Commented by francana at 2016-09-09 00:50
若い頃に読んだ本を読み返すと、あらこんな話だったかしら、と新しく感じたりもしますね。
たいした読書家ではないですし、くりかえし読む本は限られている私ですが、やっぱり何度読んでも、いいものはいいんですよね。
本屋さんという空間、そして紙の本に落ち着きを感じます(笑)。
Commented by marucox0326 at 2016-09-09 12:43
francanaさん、こんにちわ。

私もたいした読書家ではありませんが
高校の時に出会った友人は皆読書好きで
随分影響を受けました。
francanaさんのとっておきの本って
何でしょう?

秋の夜長に、自分だけの時間を楽しむには
気に入った音楽と本にどっぷり浸れたら最高です。
それもやっぱり出会いだと思うんです。
そういう時は豊かな気持ちになれますね。
Commented by sakuramoon7767ryo at 2016-09-11 12:04
夏わかば…
思わずmarucoxさんの文章に引き込まれてしまいました❗
野坂作品は読んだことありませんでしたけど
是非読んでみたいと思わず思わされました。
marucoxさんのあらすじ書き素晴らしいです❗
Commented by marucox0326 at 2016-09-12 00:30
> sakuramoon7767ryoさん

ようこそ拙ブログへ。
そしてコメントありがとうございます。

んまあ、過分なお言葉、穴があったら入りたい・・・・。
野坂昭如・・・読みやすい作品は少ないかもしれませんが
こちらはさらっと読めるので、機会があれば手に取ってみてくださいね。
ブログでは、ストーリー半ばまでしかご紹介していません。
結末はちょっと皮肉めいてもいて切なく終わっています。

これからもよろしくお願いします。
by marucox0326 | 2016-09-03 01:05 | ひとりごと | Comments(10)

照る日もあれば曇る日も・・・。そんな日々の戯言です。


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